ドリアン・グレイの良心。

昨日、夜中に読んでいた本。
オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレィの肖像』。
あれはやっぱり名作だと思う。

Dorian Gray

魂の危うさを思い切り表現していると思う。
ワタシもそうだけど、
真面目に生きていても
どこかで、堕落する事や間違いを起こす事に
奇妙な魅力を感じた経験のある人は
案外多いだろう。

危険の匂いはある種の媚薬。
甘い囁きでアナタを誘い込もうとする。

あの小説の中で、
ドリアンを取り巻く主要人物は
『危険』或いは『悪』そのものの様なヘンリー伯爵(子爵?)と
それに比較すると『善』そのもののような絵描きのバジル。

画家のバジルは若くて、少年のように純粋で、類まれな美貌を持ったドリアンという若者を崇拝している。
そして、ドリアンをモデルに肖像を描き続けている。

バジルは友人のヘンリー伯爵に、その肖像画の一つを見せていた時に
ドリアンに対する自分の思いを話の中で匂わせてしまう。
話を聞いている内にヘンリーはそのドリアン・グレィという若者に非常に興味を持つ。
ヘンリーの『毒』を良く知っている『善』のバジルは
既にイヤーな予感がしているのだが
ドリアンに紹介しろとうるさいヘンリーに負けて、
ドリアンの待つスタジオにヘンリーを連れて行ってしまうのだった。

この場所で、
6月の、バラの濃い香りが外から入ってくる、
光が斜めにキラキラと差し込んでくるこのスタジオで、
ヘンリーはドリアンの耳に
その奏でるような声で、『毒』を注ぎ込む。
世の中で、美は一番深く、尊いものだ。
美は表面的なものでしかないという人は浅はかだと。
人を表面で判断しない人は浅はかだと。
美は頭脳よりも気高いものだ、と。

ドリアンは美貌だけでなく、若さを持っている。
それがあれば何でも出来る、何でも手に入れられる。
ただ、それが出来るのは若いうちだ。
堕落の無い、間違いを起こさない人生は最もつまらないものだ。。。

ドリアンは自分の隠れた本性を見せられた様な気がした。
そして、砂漠が水を吸い込むように、ヘンリーの毒を吸収していく。
彼が、どう自分の色に染まっていくか・・・
ヘンリーにとって、ドリアンは興味深い実験材料みたいな物である事も知らずに。

絵筆を動かすのに忙しいバジルは、
ヘンリーが何をドリアンの耳に注ぎ込んでいるのかも知らないまま、
彼の夢見るような瞳、バラの蕾の様な半開きの唇、高潮した頬を
夢中でキャンバスに映していく。

完成した絵はバジルの最高傑作、
そしてドリアンの運命を変える肖像画だった。

自分はいつか若さを失ってしまう。
でも、肖像画はこの運命の日から歳を一日たりとも取らない。
それに嫉妬を感じたドリアンは、
『それが逆であって欲しい』と泣き叫ぶのだった。
自分が若さと美貌を保つためなら何でもする。
魂さえ売る。。。

ワタシにはまず、毒そのものの様なヘンリーと善そのものの様なバジルが
友人である設定に面白みを感じる。

勿論、ドリアンの願いが叶ってしまい、
絵が醜く歳を取っていく代わりにドリアンが全く若さと美貌、純粋そのものの表情を失わないのもすごいアイデアだとは思うのだが、肖像を見つめるドリアンの心の動きが、ある意味痛々しい。
驚き、怖れ、戸惑い、妙な感慨。そして、嫌悪。

次第に『毒』に染まっていく間も、
ドリアンは自分の腐敗を肖像に見続ける。
真実の自分がどう変わっていくかを見続ける。

バジルについに秘密を告白してしまったドリアンが
苦悩を見せつつも、自分の美貌と若さへの執着を捨てられず
バジルに強烈な憎しみを感じる瞬間。
そして『善』、『良心』であるバジルを殺してしまう瞬間。
そこで、ドリアンは完全に魂を悪魔に売ってしまったのだろうか。

バジルはいなくなった。
だが、バジルの描いた肖像は残った。
ヘンリーの影響で『悪』、『腐敗』一色になった様なドリアン。
そのドリアンを肖像はあざ笑う。

毒に染まりきって引き返せなくなってしまった頃、
ドリアンは魂がこれ以上腐敗していく事、
自分がこれ以上堕落していく事に疲れてしまう。
自分の『善』の部分を取り戻したいと思ったのかもしれない。

小説の最後で、耐え切れなくなったドリアンが
肖像画にナイフを突き立てる。
『腐敗』して醜くなった絵の中の自分を殺す。
しかし、死んだのは現実のドリアンの方だった。

この場面でワタシは、
ドリアンは自分を消すような気持ちで
絵を切り裂いたのだと感じた。

肖像画、つまりドリアンの内面は
醜い姿に変貌したドリアンの死体の向かいで
バジルが描いた時のままの、
純粋な美しい若者の姿に戻っていた。

これはワタシの勝手な解釈でしか無い。

そして、この解釈も読む度に変わっていくのかも知れない。

日本でも、石川達三という作家が『悪の愉しみ』という本を書いている。
悪の愉しみに完全に身を任せてしまうか、踏みとどまるか。
小説の終わりを読むと、
どちらもやはり悪は愉しみでは終わらない。
悲劇で終わるモノなのだと思う。

人である限り、完全に良心は消え去らない。

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齢45になるベテランてんかん患者です。 お仕事はきちんとしながら オフはだらだらと生活してます。 仕事仲間には私が怠け者とはバレてません。 てんかん、っていう以外はまあ、普通。 つまんない冗談とかよく言ってます。

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ふぅみん:D

Author:ふぅみん:D
16歳の時にてんかん発病。
闘病歴24年。(な、長い!)
7年前、オーストラリアのメルボルンでソウルメイトと出会い、8ヶ月後に結婚。

性格:真面目な変人。オープンな性格。時々情緒不安定。
タイプ:エロオヤジ系。
煽てられると調子に乗る。

いつも、ありがとう。

折角ブログを覗きに来てくれる人が居るのに、
サボり癖のついている最近のワタシ。
だけど、結局戻ってくる。
どんなに長くサボっていても
その内にきっと必ず書きたくなるから。

ブログってそんなものなのかも知れない。
もう書き始めて何年になるんだろうか?

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ワタシも歳をとり。
成長し。(?)
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あ、あのヒト、どうしてるかな?
なんて、ワタシも覗きにいく。
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ぼちぼち頑張っているヒト、
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ああ、頑張っているんだな、って分かるだけで、
一日の終わりに、ワタシに元気をくれる。
ホントにありがとう。
そして、来てくれたヒト、ありがとう。

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